「映画プリキュアオールスターズDX2 エンディングCGメイキング」に参加してきました

8月5日に行われた「東映デジタルセンターOPEN記念セミナー」の「映画プリキュアオールスターズDX2 エンディングCGメイキング」に参加してきました。

■内容:
フルCGダンスアニメの制作手法
セルアニメーションからCGアニメーションへその魅力を再現する為のアプローチ〜
映画『プリキュアオールスターズDX2』のエンディングのダンスシーンは、モーションキャプチャを使用してどのように制作されたのかをご紹介します。

http://www.borndigital.co.jp/seminar/detail.php?id=141

当日取った大量のメモ(A6判、約40ページ)を基に、レポートとしてまとめさせて頂きます。とはいえ、私には専門知識が無い*1ので、間違っているところや分かりづらいところが多くあるかと思います。そういった点は、コメントなどで教えて頂けるとありがたいです。

開場から開演まで


東映東京撮影所の敷地内にある東映デジタルセンターの入口を入ったところで、資料(東映デジタルセンターのパンフレットなど)が入った封筒、アンケート用紙、3Dメガネの3点を受け取り、セミナーの会場である「シアター」へ。

会場は、全体的に映画館のような印象。広さや客席の数だけを見ると小規模の映画館といった感じですが、スクリーンは非常に大きいです。私は前からおおよそ5列目くらいの席に座りましたが、前の座席との段差が高く取られているので、スクリーンや、その前にあるステージがとてもよく見えました。ステージには、下手側に演台が、上手側には長机、その上にはiMacが置かれていました。このセミナーは、上手の机に講師の方が座られ、スクリーンに映像やスライドを映しつつ、それに合わせて説明をされるといったスタイルで進められました。

予定されていた通り、17時にセミナーが始まりました。客席は満員です。

まず、進行役であるボーンデジタルの方から本セミナーについての簡単な説明があった後、センター長の葛西氏による挨拶がありました。内容は、シアターについて、また東映デジタルセンター全体についての説明など。ここでの説明については、東映デジタルセンターのウェブサイトに掲載されている内容と概ね同様でしたので、この記事では省略します。続いて、今回のセミナーの講師である、宮原氏(エンディングディレクター)、中沢氏(CGディレクター)、今村氏(CGプロデューサー)の紹介がありました。

セミナーの本題に入る前に、このセミナーの題材となっている「映画プリキュアオールスターズDX2 希望の光☆レインボージュエルを守れ!」のエンディング(BDなどに収録されている「コンプリートバージョン」)が上映*2されました。10m級スクリーン(資料より)に投射される映像には迫力があります。

セミナー

エンディング上映の後は、いよいよセミナーの本題に入ります。

まず、今村氏より「DX2 CGまでの軌跡」と題して、東映アニメーションにおけるモーションキャプチャの歴史について、次のように紹介がありました。

ちなみに講師の方々は、モーションキャプチャのことを「モーキャプ」と略しておられました。

続いては、「プリプロダクション編」として「テーマ決めからダンスデータまで」と題しての解説。ここからは、メインの解説を宮原氏に交代。

まずは、DX2エンディングのテーマについて。作品テーマは「ワクワクするステージを最前列で」(鷲尾氏からの提案)、スタッフテーマは「TVフレッシュEDでやり残した事に挑戦」。このスタッフテーマとは、製作スタッフ内での目標、裏テーマといったところでしょうか。これは、テレビシリーズでは予算などの都合でこぢんまりとしてしまうが、劇場版ではより大掛かりなイメージで作る、という意味とのことでした。

続いて「テーマに即したイメージショット」と題して解説。この「イメージショット」とは、打ち合わせにあたって描かれたもので、私が見た印象としては非常に簡単に描かれたラフ画のような感じです。ここでは、スクリーン上に実際の「イメージショット」を映しながら、それにコメントをする形といった形で進められました。

  • 1枚目に映し出されたのはエンディング冒頭のハートキャッチの二人。このシーンは、「マイケルのパクリだと言われたりしているが、その通り」とコメント(会場笑い)がありました。続く2枚目もハートキャッチのシーン。この段階では、(テレビシリーズの)ハートキャッチのテーマは「ファッション」ということぐらいしか決まっていなかったそうで、とりあえず花道(ファッションショーのランウェイ)を意識して作った、とのことです
  • 3枚目はSplashStarへ交代するシーン。次の4枚目もSplashStar。ここでは、キャラクターの特徴である「オーラ」をまとっている点を生かすために、移動を多くするよう心がけたとのこと
  • フレッシュへ交代するシーン。続いて6枚目もフレッシュ。このシーンは、テレビシリーズのエンディングをゴージャスにした感じ、とのこと。ダンスのレベルの目安として「他チームがモー娘。ならフレッシュはSPEED」と指示。ただし、振り返ってみるとこれは微妙な指示だった、とのことです
  • MaxHeartの2人がジャンプするシーン。このシーンは、イメージショットの段階、つまり製作初期から構想の中に入っている、とのこと。客席へのジャンプというのは、ピーターパンのミュージカルのように観客が沸くので取り入れたかったそうです
  • 5GoGo!の登場シーン。こちらはマイケルではなく、バットマンを呼ぶときのイメージだそうです
  • 最後に映されたのは、エンディングのラストで全員が揃うところの「イメージショット」

ここまで見てきた「イメージショット」を基に、振り付けを行うそうです。

続いて「DX2 曲の決定から振り付けまで」と題して、モーションキャプチャ作業までの流れを解説。次のような流れだそうです。

  • 2009年11月:曲の受領、ダンスチームと初打ち合わせ。このダンスチームは、大阪でプリキュアのミュージカルなども行っているプロのダンスチーム
  • 11月下旬:ダンスチームと振り付けの確認
  • 12月上旬:EDダンスの振り付けUP
  • 12月中旬:モーションキャプチャ収録

続いて「振り付けからモーションキャプチャへ」と題して解説。モーションキャプチャに際して、17人同時では制約が多いので6人を上限とした、とのこと。また、人数が多いとリテイクの回数が多くなるのでおすすめしない、とコメントがありました。モーションキャプチャでは、「キャプチャーリスト」と「ポジションシート」(ここで、ポジションとは立ち位置のこと)が重要となったそうです。

ここで、ここまでの「まとめムービー」が上映されました。この映像は、エンディングの映像(完成版)に、モーションキャプチャ時のダンスアクターの映像をシンクロさせたものです。また、アクターだけでなく、先程解説があった「ポジションシート」なども映されていました。

この映像から伺える範囲で、モーションキャプチャの際にアクターが着ている服は、レオタードのような体にフィットとした上下と、よく揺れる薄手のスカート(パニエが入っているような印象)。また、当然ではありますが、アクターの動きとエンディング映像でのキャラクターの動きは全く同じように見えます。

また、この映像を見ながらも適宜解説が行われました。17人を6人するときにはスカートの色(アクターのスカートはそれぞれ異なる色)で区別していた、とのコメント。最後のシーンは「2人+2人+2人」で、後方にいるキャラは前にいるキャラをコピー、決めポーズの部分は3組に分けて収録した、とのことでした。

映像が終わり、ここからは「CG制作」に移ります。メインの解説が、今村氏に交代します。

まずは、「モデリング:キャラクター」と題して、主に「顔の造形」と「等身差」について。最初に「モデリング:顔造形」と題して解説。顔の造形は、正面と斜め正面を忠実に再現した(横顔は無理に再現しない)、とのこと。また、健康的に見えるチークの塗り方などを女性スタッフが提案したそうです(後述する「美肌レイヤー」にも生きている)。

次に「モデリング:等身調整」と題して解説。等身については、フレッシュに合わせ、それに従い他のキャラクターは等身を高めに。すると、どうしても顔が大きくなってしまい、その結果生じる不自然な部分(前にいるキャラクターよりも後ろにいるキャラクターの方が顔が大きく見える、など)はカットごとに調整した、とのこと。

続いて「モデリング:ステージ」と題して解説。ステージはもう一つの主役といえる、とコメントがありました。ステージについては、女性スタッフが中心となって可愛くデザインした、とのこと。ステージデザインは、日本武道館をイメージ。SplashStarやMaxHeartのシーンで登場したフロートしているステージや、5GoGo!のステージ、また本編を見ただけでは分かりづらいステージ全体(つぼみを閉じた花のような印象)などのスチルもスクリーンに映されました。

続いて「アニマティックス」と題して解説。絵コンテは最小限にして、ほとんどが動画コンテを使用したそうです。

ここで、一番最初に完成した3分半ほどのムービーが上映されました。私の印象では、当然ではありますが全体的に荒く、色もくすんだ感じでした。一部のキャラクターは棒人間のような形です。この映像の中では、SplashStarのシーンにスモークがありましたが、本編(完成版)では無くなった、とのこと。また、MaxHeartのジャンプするシーンは、当然モーションキャプチャでは撮れないので絵コンテを使用した、とのこと。この映像が製作されたのは1月で、モーションキャプチャの収録から5日から10日後くらいだそうです。

続いては、「絵コンテ」と題して解説。絵コンテが使用されたのは、エフェクトや曲間などの補足と、前述のMaxHeartのジャンプするシーンだそうです。

続いて「アニメーション」と題して解説。ここでは、主に次の2点。

  • Primary Animation。キャプチャ素材の配置、顔が隠れているところを修正するなど
  • Secondary Animation。フェイシャル、振れ物(髪・クロスなど)、クロスとは服のこと

続いて「PrimaryからSecondary」と題して解説。ここでも、映像が上映されました。プライマリ(表情などが無い)の映像からセカンダリ(ここまででほぼ完成している印象)、特殊効果まで。

ここから中沢氏に交代し、「合成:キャラクター編」と題して解説。ここでは、キャラクター(キュアブロッサム)に、レイヤーを1枚づつ合成した動画を使って説明が行われました。このとき、肌の合成では「美肌レイヤー」と呼ばれるレイヤーを使って可愛さを上昇させている、とのことでした。

続いて「合成:BG合成」と題して解説。BG(ステージ)は、実際のライブ(音楽ライブ)を参考にした、とのこと。これもレイヤー?(コンポジット素材?)ごとに動画を使って説明。動画を見て私が感じた印象ですが、実際に存在するステージと、そこに実際に存在するライトや特殊効果の装置を動かしているかのよう、つまり映像を作っているというよりも舞台を操作しているかのようでした。

次のスクリーンショットもスクリーンに映されました。

  • After Effects上のインタフェース
  • ライティングの調整作業(ライトの色など)
  • 部内マニュアル

続いて「自社開発ツール」と題して、3点のツール(プラグイン)の説明がありました。

  • 大量素材のレンダリングを行うためのもの。レンダリングシーン?を開く必要がない、ネットワークレンダリングに投げる
  • アセットのロードからアニメの書き出しまで1つのウィンドウで行うためのもの
  • 大量にある髪などの処理

さて、セミナーも終盤に入り、ここで「ED製作まとめ」と題して、製作期間や製作作業で使用されたコンピュータについて解説がありました。まず、製作期間などは次の通りです。

  • 期間:7ヶ月。これは特典版までの期間(主題歌CD付属のDVD版、劇場版、BDなどに付属の特典版の順に製作)
  • スタッフ数:約20名
  • 協力会社:プランニング遊(ダンスパート、振り付け&アクター協力)、MOZOO(モーションキャプチャ協力)、QREAZY、サンジゲン、TAP

コンピュータ環境は次の通りです。

  • 作業マシン:64ビットおよび32ビットのWindows PC。64ビットマシンが活躍したとのこと
  • レンダリングマシン:30機×4コア(合計120コア)。(他の作品も平行していたため)常時フルで使っていたわけではないが、4日でレンダリングが完了
  • 使用ソフト:MAYA 2010、Final Cut Proほか*3

以上、ここまでがセミナーの本題でした。本当に貴重なお話や映像ばかりで、講師の方はもちろん、東映、ボーンデジタル、そして制作スタッフの方々に大感謝です。

セミナーを聞いて、臨場感を出すことに注力されている印象がありました。このエンディングは何度も見ましたが、冒頭にあった作品テーマ「ワクワクするステージを最前列で」は、十二分に達成されていると思います。

おまけ

ここまででセミナーの本題は終わりですが、「おまけ」として次の2点がありました。それぞれ、1枚のスライドを映して、簡単に説明をする形です。

質疑応答

この後、3D立体視映像の上映が予定されていますが、そのための準備に少し時間がかかるため、その間を利用して進行役の方から講師の方へ質問がありました。

質問の内容は「制作にあたって大変だったところは?」。この質問に、中沢氏が「スパッツ…いわゆるパンチラを気にする」と回答。これは、大塚氏(監督)のこだわりで、いやらしい感じに見えないようにするため。この作業(パンチラを潰す作業)で、チェックが1工程分増えた感じだった、とのこと。初めから映らないように配慮していたが、ステージへの映り込みがあったり。「探そうとしても見つからないので探さないで」とのコメントに、会場では笑いが起こっていました。

3D立体視映像の上映

セミナーの最後に、3D立体視版のエンディング映像が上映されました。この映像は、おそらく「東京国際アニメフェア2010」の、東映アニメーションブースで上映されていたものと同じではないかと思います。環境が違うので正確な比較はできませんが、こちらの方が映像がより明るく見えました*4。ちなみに、この会場は「XpanD 3D」方式(資料より)です。

終演

18時過ぎにセミナーが終了しました。セミナーの終了後には、希望者に対して東映東京撮影所内の見学ツアーもありました。

*1:このセミナーの対象者として、募集要項には映像業界の方でご興味のある方ならどなたでも可とあるのですが、私はこれを「映像業界にご興味のある方なら」と勘違いしていました。笑

*2:冒頭で述べた通り3Dメガネが配布されていますが、この映像は立体視ではありません。

*3:いくつか挙げられていましたが、メモしていませんでした。

*4:私は、残念ながら3D立体視を上手く見ることができない(左右の視力差が大きいため?)ので、立体感の比較は省略します。